筑波大学附属病院循環器内科の青沼和隆教授らのグループが、平成26年7月1日、心房細動に対する新たなカテーテル治療である「経皮的カテーテル心筋冷凍焼灼術(アブレーション)」に成功しました、わが国では初めての施行例です。
【本治療法の特徴】
不整脈の一種である発作性心房細動に対する根治療法としては,すでに高周波カテーテル焼灼術(アブレーション)が普及しつつあります。しかし,高周波エネルギーを用いたこの手術法は術者の熟練を要し,長い施術時間が問題でした。今回施行されたカテーテル心筋冷凍焼灼術の特徴は,バルーンカテーテルによる均一な一括冷凍焼灼で,短時間で確実な心房細動治療が可能となりました。(図1、図2、図3、図4)
患者さんに対する具体的なメリットとしては、以下の点が挙げられます。
- 体外から血管を穿刺する本数が従来術式(高周波アブレーション)より少なくてよい。
- 手術時間が従来術式の約2/3程度に短縮された。(将来的に手術時間は1/2程度に短縮されると期待される)。入院期間は従来手術と同様で4泊5日程度。
- 従来術式よりも再発率が低減する。(具体的な再発率は術前の心房細動の経過・重症度によって大きく異なる)
- 手術時間が短いため、より多くの手術施行が可能となり、患者の治療機会が増加する。(ちなみに現在、筑波大学の心房細動アブレーションの入院待ち期間は2か月以上)
- 医療費に関しては従来法と同様、高額医療の適応となるため患者負担は同じ。
【患者】
発作性心房細動の男性患者さん(千葉県在住、70代)。抗不整脈薬の内服下でも心房細動発作が繰り返し生じていたため,本治療法による心房細動根治を目指して入院されました。
【経過】
- 局所麻酔下に4本のカテーテルを大腿静脈および鎖骨下静脈から挿入。
- 心房細動治療の基本である電気的肺静脈隔離を目的に,バルーンカテーテルを肺静脈入口部に留置。
- バルーンカテーテルからの冷却によって,わずか数秒から数十秒で肺静脈隔離が得られた。その後2‐3分の追加冷却を行った。
- 同様の冷凍焼灼術を4本の肺静脈すべてに施行し,手術を終了した。
- 術後の経過に問題なく,3日後に退院された。
【今後の展望】
発作性心房細動とは異なり,持続性心房細動や複雑な心房不整脈に対しては,従来の高周波カテーテル焼灼術の利点を利用した治療が必要です。一方,初期の病態である発作性心房細動に対しては,短時間で確実な治療が可能である経皮的カテーテル心筋冷凍焼灼術が広く行われるようになると考えられます。このような発作性心房細動患者さんの早期発見・早期治療が,心房細動の持続性を防ぎ,重大な合併症である脳梗塞の抑制にもつながることと期待されます。
図3 冷凍時の温度分布のイメージ図(青:-80℃、赤:体温)
図4 米国での治験成績(本術式による治療と薬物治療のみとの治療成績の比較)
本術式で治療した場合(水色線 CRYO)、術後1年の治療成功(再発しない)率は7割程度だが、手術をせず薬物治療のみの場合(青線)、治療成功率は1割以下となる。なお、この米国試験で用いられた経皮的カテーテル心筋冷凍焼灼カテーテルは第一世代のものであり、今回我が国に導入された改良型第二世代のもののほうがさらに効果が高いと期待されている。今後、厚生労働省への全例報告調査報告によってそれが明らかとなれば世界初の報告になる。